中国の工場に発注したのに、品質が安定しない。
定期的に同じような不良が出る。
改善を頼んでも、その時だけ直って、しばらくするとまた元に戻る――そんな経験はありませんか。
じつは、その鍵をにぎるのが「工場監査」です。
私は、ブラック企業に10年勤め、品質管理・調達の現場で、中国・東南アジアの取引先工場のベンダー管理や工場監査・指導を担ってきた経験者です。
新規の取引先を採用してよいかを判断する監査も、すでに取引のある工場を定期的に見る監査も、現地で数多く担当してきました。
だからこそ、不良が止まらず焦る気持ちも、初めて監査を任されて何を見ればいいのか分からない不安も、よく分かります。
先に、いちばん大事なことをお伝えします。
検品をいくら厳しくしても、不良そのものは減りません。
なぜなら検品は「出来上がった製品」を見ているだけで、不良が生まれる「作る仕組み」には触れていないからです。
その「作る仕組み」を見て、良品を作り続けられる体制かを確かめるのが、工場監査です。
そしてもう一つ。
工場監査は、一度やって終わりの「単発のイベント」ではありません。
品質を継続的に維持・管理していくための「仕組み」です。
この記事は、その考え方を軸に進めていきます。
この記事では、次の6つを順番に解説します。
- 工場監査とは何か・検品との違いと「品質が安定しない本当の理由」
- 監査の種類(内部監査・外部監査・第二者監査)とISO認証の落とし穴
- 品質を安定させる「チェックの観点」と危険サイン
- 監査の進め方・流れ(計画→実施→報告書→是正→再監査)
- 中国・海外工場ならではの注意点(言語・形だけの管理・服装やマナー)
- 監査だけで終わらせない、品質を継続管理する仕組み
不良が止まらないのは、あなたの管理能力が足りないからではありません。
「作る仕組みを見る視点」を、誰も教えてくれなかっただけです。
なお、そもそも品質管理という仕事の全体像から知りたい方は、品質管理とは?仕事内容をわかりやすく解説|未経験の不安に答えるもあわせて読んでみてください。
工場監査とは?目的と「品質が安定しない」本当の理由
「工場監査」と聞くと、なにか特別で難しいことのように感じるかもしれません。
ですが、本質はとてもシンプルです。
まずは「監査とは何か」「なぜ品質が安定しないのか」を、検品との違いから整理していきましょう。
工場監査とは「良品を作り続けられる体制か」を確かめること
工場監査とは、取引先の工場が「安定して良品を作り続けられる体制」になっているかを、現場・記録・人の3つを実際に見て評価・確認することです。
目的は、出来上がった製品の良し悪しを判定することではありません。
良品が生まれる仕組みそのものが整っているかを見るのが、監査の目的です。
たとえば、検査の基準が決まっているか。
作業の手順が文書になっていて、その通りに作業されているか。
不良が出たときに、原因をつぶす仕組みが動いているか。
こうした「作り方の土台」を確認していくのが、工場監査です。
検品と監査の違い――「出来た製品」ではなく「作る仕組み」を見る
検品と監査は、似ているようでまったく違います。
検品は、出来上がった製品を見て、良品と不良品を分ける作業です。
一方の監査は、その製品を「どう作っているか」という仕組みを見る作業です。
ここが、多くの人がつまずくところです。
検品をいくら厳しくしても、不良そのものは減りません。
厳しくすればするほど見つかる不良は増え、選別や返品のコストばかりがふくらんでいきます。
検品は不良を「見つける」だけで、不良が「生まれる」仕組みには手をつけていないからです。
不良を減らしたいなら、見るべきは出来た製品ではなく、それを作る現場・記録・人です。
つまり、検品を強化するのではなく、監査の視点を持つこと。
これが、品質を安定させる第一歩になります。
中国・海外工場で品質が安定しない本当の理由
品質が安定しない工場には、共通する弱点があります。
それは「仕組み・記録・人」のどこかが抜けていることです。
作る仕組み(基準や手順)が定まっていない。
定まっていても、記録が残っておらず、守られているか分からない。
あるいは人が入れ替わり、基準が次の担当者に引き継がれていない。
この3つのどれかが欠けると、製品の品質は揺らぎ、同じ不良が形を変えて繰り返されます。
言い換えれば、不良が止まらないのは、相手の工場の「能力」だけの問題でも、あなたの「管理能力」の問題でもありません。
多くは、作る仕組みのどこに穴があるかを「見る視点」がなかっただけなのです。
現地で具体的に何を確認すればいいかは、中国工場の品質管理の実態|現地で必ず確認すべき6つのポイントでもくわしく整理しています。
監査は「点」ではなく「線」で効く
ここで、この記事の軸になる考え方をお伝えします。
監査は、訪問したその日だけの「点」では効きません。
定期的に続けていく「線」にして、はじめて品質が安定していきます。
一度の監査で指摘して終わりにすると、その時だけ取り繕われて、しばらくすると元に戻ってしまうことがよくあります。
監査は、品質を継続的に維持・管理していく仕組みの「入口」だと考えてください。
この前提を持っているかどうかで、監査の効き方は大きく変わります。
📌 今日できる一歩
「自分は検品(出来た製品)ばかり見て、作る仕組みを見ていなかったかもしれない」と、一度振り返ってみてください。
視点を「製品」から「仕組み」に切り替えるだけで、次に現場で見るべきものが変わってきます。
工場監査の種類|内部監査・外部監査・第二者監査
ひとくちに監査といっても、いくつかの種類があります。
「誰が」「何のために」監査するかで分かれており、中国・海外の取引先を見る監査がどれにあたるのかを知っておくと、自分の立ち位置がはっきりします。
内部監査(自社で自社を点検する)
内部監査は、自社の品質体制を自分たちで点検する監査です。
第一者監査とも呼ばれます。
自社のルールが守られているか、改善すべき点はないかを、社内の目で定期的にチェックします。
外部監査(認証機関などの第三者による監査)
外部監査は、認証機関などの第三者が行う監査です。
代表的なのが、ISO9001などの認証審査です。
ISO9001は、品質マネジメントシステムに関する国際規格で、世界でもっとも普及しているマネジメント規格の一つです(日本品質保証機構(JQA)「ISO 9001(品質)」)。
一貫した製品・サービスの提供と、顧客満足の向上を目指すための要求事項が定められています。
第三者の認証機関がこの規格に沿って審査するのが、外部監査にあたります。
第二者監査(発注側が取引先工場を監査する)
第二者監査は、発注する側が、取引先である工場を監査することです。
中国・海外工場の品質管理で主役になるのは、まさにこの第二者監査です。
「自分たちの製品を、安心して任せられる工場か」を、発注者の目で確かめる。
新規の取引先を採用してよいかの判断も、すでに取引のある工場の維持確認も、この第二者監査で行います。
この記事で扱う「工場監査」は、基本的にこの第二者監査を指しています。
ISO認証の「看板」を鵜呑みにしない
ここで一つ、注意しておきたいことがあります。
「ISO9001を取得している工場だから安心」とは、必ずしも言い切れないということです。
認証は、一定の品質体制があることを示す大切な証です。
ただ、認証を取ったあとに運用が形だけになり、ルールが守られていないケースもあります。
個人の経験では、認証の有無そのものよりも、その仕組みが実際に日々動いているかを自分の目で確かめることのほうが、ずっと大切だと感じています。
看板の裏側にある実態の見極め方は、信用できない中国企業の特徴6選|取引で後悔しない工場の選び方でも具体的に解説しています。
3つの監査の違いを、下の表に整理しました。
| 種類 | 誰が監査するか | 主な目的 |
|---|---|---|
| 内部監査 (第一者監査) | 自社が自社を | 自社の品質体制の点検・改善 |
| 外部監査 (第三者監査) | 認証機関などの第三者 | ISO9001などの認証の審査・維持 |
| 第二者監査 | 発注側が取引先(工場)を | 取引先が安定して良品を作れる体制かの確認 (中国・海外工場の品質管理の主役) |
📌 今日できる一歩
これから監査しようとしている工場が「ISO認証あり」かどうかだけで安心していないか、確認してみてください。
認証は出発点であって、ゴールではありません。
「認証の有無」と「実際の運用」は分けて考える――この一点を意識するだけで、見方が変わります。
工場監査で品質を安定させる「チェックの観点」と危険サイン
「チェックリストが欲しい」というのが、初めて監査を任された方の本音だと思います。
ですが、どんな製品にも合う万能のチェックリストはありません。
大切なのは、項目を埋めることより「どんな観点で見るか」と「どんな危険サインに気づくか」です。
ここでは、品質を安定させるための代表的な観点と、現場で気づきたい危険サインを整理します。
品質管理の体制(検査基準・限度見本・歯止め)
まず見たいのは、品質を判断する「基準」が現場にあるかどうかです。
検査基準が決まっているか、良品と不良品の境目を示す限度見本があるか。
そして、不良を見つけたときに後工程へ流さない「歯止め」の仕組みがあるか。
このあたりが曖昧だと、人によって判断がぶれ、不良が市場まで流れてしまいます。
工程と手順書(SOP)が「実際に」守られているか
次に見たいのが、作業手順書(SOP)と現場の作業が一致しているかです。
文書が立派でも、現場の作業者が見ていなければ意味がありません。
手順書が棚にしまわれたままで、作業は我流――これは品質が安定しない典型的なパターンです。
作業者が手順書を見て、その通りに作業できているかを、実際の動きで確認します。
記録・トレーサビリティ(後追いで作られていないか)
記録は、品質体制が日常的に回っているかを映す鏡です。
検査記録が日々きちんと残されているか、ロットをさかのぼって追跡できるか。
ここに、工場の本当の姿が表れます。
これは、ある新規工場を監査したときの話です。
その工場はISO9001を取得していて、整理整頓もまずまず。
第一印象は悪くありませんでした。
採用に至らないダメな工場は、一歩踏み入れただけで直感的に分かることが多いのですが、その工場は第一印象としてはクリアだったのです。
受入検査から部材倉庫、各生産工程、梱包ライン、完成品置場まで、一通り見て回りました。
SOPやSIP(標準検査手順書)も各工程にあり、不良品の隔離や、在庫・仕掛品の識別管理もできていました。
ところが、肝心の検査記録が、どこにも見当たらないのです。
工場側は「すぐに品質管理が回収するから現場にはない、後で会議室に持ってくる」と言いました。
会議室で確認すると、たしかに記入済みの記録書が出てきました。
しかし、複数の工程の記録書が、すべて同じ日付・同じ筆跡だったのです。
明らかに、その場で作ったばかりの記録でした。
そこで「今月でも先月でもいいので、1か月分の記録を持ってきてください」と伝えたのですが、いつまで待っても記録は届きませんでした。
つまり、日常的に記録を取っていない工場だったということです。
記録のない工場は、いくらSOPが整っていても、品質が安定しているとは言えません。
「記録が後追いで一気に作られていないか」は、私が必ず確認する危険サインの一つです。
5S・現場の清潔感(品質と安全の土台)
5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)は、品質と安全の土台です。
整理は必要なものと不要なものを分けて不要なものを排除すること、整頓は必要なものをいつでも取り出せるようにしておくこと――こうした基本の積み重ねが、安定した品質を支えます(厚生労働省 職場のあんぜんサイト「4S(整理、整頓、清掃、清潔)」。4つにしつけを加えて5Sと呼ばれます)。
注意したいのは、5Sが「監査の日だけ」整っているケースです。
通路や置場にものがあふれていないか、清掃が習慣として根づいているか。
普段の姿を想像しながら、その場限りの取り繕いでないかを見ます。
改善・是正の仕組み(根本原因をつぶせているか)
最後に見たいのが、不良が出たときに根本原因をつぶす仕組みがあるかです。
是正が「担当者を注意した」「気をつけます」で終わっていないか。
なぜその不良が起きたのか、なぜ流出したのかを掘り下げ、再発防止まで回っているかを確認します。
この「なぜ」を掘り下げる手法は、なぜなぜ分析のコツ|不良の根本原因を特定し再発を止める進め方でくわしく解説しています。
ここまでの観点と、気づきたい危険サインを表にまとめます。
完成したチェックシートをそのまま使うのではなく、自社の製品に合わせて「観点」を持ち帰るための地図として使ってください。
| チェックの観点 | 最低限見る代表ポイント | 危険サイン (これが見えたら要注意) |
|---|---|---|
| 品質管理の体制 | 検査基準・限度見本・不良を後工程に流さない歯止め | 限度見本が現場にない/古い・判断が人によってぶれる |
| 工程と手順書(SOP) | 文書と現場の作業が一致しているか | 作業者が手順書を見ず我流・文書と実作業が食い違う |
| 記録・トレーサビリティ | 記録が日常的に取られ・ロットを追跡できるか | 記録が後追いで一気に作られている・日付や筆跡が揃いすぎ |
| 5S・現場の清潔感 | 整理・整頓・清掃が習慣として続いているか | 監査の日だけ整っている・通路や置場が乱れている |
| 改善・是正の仕組み | 根本原因をつぶす分析と再発防止が回っているか | 是正が「注意した」で終わる・同じ不良が繰り返される |
📌 今日できる一歩
上の5つの観点を参考に、自社の製品に合った「最低限見たい項目」を1枚のメモにまとめてみてください。
立派な完成版を目指す必要はありません。
まずは「自分の目で何を見るか」を言葉にしておくことが、次の監査の精度を上げます。
工場監査の進め方・流れ(計画→実施→報告書→是正→再監査)
監査は、思いつきで現場を見て回るものではありません。
計画から再監査まで、流れに沿って進めることで、抜け漏れなく品質を確認できます。
ここでは、監査の5つのステップを順番に見ていきましょう。
①事前準備・計画
まずは準備です。
自社の要求事項を整理し、見るべき観点をチェックリストに落とし込みます。
当日のアジェンダと日程は、相手の工場とあらかじめ共有しておきましょう。
準備の質が、監査全体の質を決めます。
②現地監査の実施(「自分の目」で見る)
当日は、会議室の説明だけで済ませず、必ず現場を歩きます。
受入から出荷までの工程を一つずつ見て、記録を確認し、作業者にヒアリングする。
書類の上では完璧でも、現場を歩くと景色が変わることはよくあります。
「自分の目」で見ることが、監査でいちばん大切な姿勢です。
③監査報告書の作成
監査が終わったら、報告書にまとめます。
指摘事項を、写真などのエビデンスとともに記録し、重要度で区分します。
「すぐ直すべきこと」と「中長期で改善すること」を分けておくと、相手も動きやすくなります。
後から見返せる形で残すことが、次につながります。
④是正処置と改善のフォロー
監査は、指摘して終わりではありません。
指摘した内容に対して、期限と責任者を決め、根本原因まで掘り下げて改善してもらいます。
ここで「なぜそうなったのか」を相手任せにせず、一緒に考える姿勢が大切です。
先ほどの、記録を後から作っていた工場の話には続きがあります。
記録を取っていないだけなら、「ルールはあるのですから、今後はその通りに記録して保管してくださいね」で済みます。
ですが、記録を取っていないうえに、その場しのぎの記録でごまかそうとした工場となると、話は別です。
個人の経験では、こうした工場には、ふだんより厳しめの改善指示と確認を行うようにしています。
改善確認のために再訪したときも、本当に改善できているかを厳しくチェックし、問題ないと判断できたときだけ採用します。
大事なのは、相手を責めることではなく、改善を受け入れる姿勢があるかを見極めることです。
こちらの話を聞く姿勢があるか、改善を受け入れる組織かどうかは、品質と同じくらい重要な見るポイントだと感じています。
⑤再監査・継続(一度で終わらせない)
改善が定着したかを確認し、その後も定期的に監査を続けます。
一度で終わらせないことが、戻りを防ぎます。
素直に改善してくれる工場であれば、半年で見違えることもあれば、1〜2年かけてじっくり一緒に育てていくこともあります。
監査は「終わり」ではなく「始まり」だと考えると、品質は少しずつ安定していきます。
監査の流れと、各ステップの成果物を表にまとめました。
| ステップ | やること | 主な成果物 |
|---|---|---|
| ①事前準備・計画 | 要求事項の整理・チェックリスト作成・日程の共有 | 監査計画・チェックリスト |
| ②現地監査の実施 | 現場を歩く・記録を確認・作業者にヒアリング | 監査メモ・写真などのエビデンス |
| ③報告書の作成 | 指摘事項の整理・重要度の区分・エビデンス添付 | 監査報告書 |
| ④是正処置とフォロー | 期限・責任者を決め、根本原因まで改善 | 是正処置報告書 |
| ⑤再監査・継続 | 改善の定着を確認・定期監査へつなぐ | 改善確認記録・次回の監査計画 |
📌 今日できる一歩
次の監査で、「是正の期限」と「責任者」を必ず決めて記録に残すと決めてください。
指摘して終わりにしないこの一手間が、「その時だけ直る」を「ちゃんと定着する」に変えていきます。
中国・海外工場の監査で特に注意すること
ここからは、中国・海外の工場ならではの注意点です。
言葉や商習慣の違いがあるぶん、国内の監査とは勝手が違う場面が出てきます。
ただ、これは「中国だから品質が無理」という話ではありません。
仕組みと伝え方を工夫すれば、海外の工場でも品質は安定させられる――それが私の実感です。
言語・通訳の壁を「文書」で埋める
もっとも大きいのが、言語の壁です。
口頭で「ここを直してほしい」と伝えても、通訳を介すうちに曖昧になり、いつのまにか流れてしまうことがあります。
だからこそ、要求事項は「文書で・曖昧を残さず」伝えることが基本です。
口頭合意で終わらせず、何を・どの基準で・いつまでにを文章にして共有する。
この一手間が、後の「言った・言わない」を防ぎます。
中国企業との取引で品質や納期を守ってもらう工夫は、中国企業との取引で失敗しない注意点|品質と納期を守らせる3つの鍵でも掘り下げています。
「口だけ管理職」「形だけの5S・SOP」を見抜く
書類の上では整っているのに、現場とギャップがある。
これは海外工場の監査でよく出会う場面です。
説明はうまいけれど現場を掌握できていない管理職、監査の日だけ整えられた5S、棚に眠ったままのSOP。
こうした「形だけ」を見抜くには、書類の説明をうのみにせず、現場と記録を突き合わせるしかありません。
角を立てずに、しかし確認すべきことはきちんと確認する。
その姿勢が、相手にも「ちゃんと見られている」という良い緊張感を生みます。
現地監査の服装・お礼・手土産――マナーの実際
初めての現地監査では、服装やマナーも気になるところだと思います。
服装は、現場を歩くことが多いので、清潔感があって動きやすいものがおすすめです。
安全靴やヘルメットの着用など、現場の指示には素直に従いましょう。
挨拶やお礼はもちろん丁寧に。
ただ、個人的には、手土産を用意することよりも、要求事項を明確に文書で示すことのほうが、よほど信頼関係につながると感じています。
気遣いは大切ですが、監査の本筋は「良いものを一緒に作る」こと。
そこを見失わないようにしたいものです。
安さだけで選ばない――私の失敗から
最後に、私自身の失敗談をお話しします。
「価格が圧倒的に安いので、なんとか採用してほしい」という相談が、社内から品質管理部門に上がってきたことがありました。
その工場は、安いだけあって管理レベルはかなり低い状態でした。
それでも、競合との価格戦略で有利になるという判断から、改善指示を出しながら育てて採用することになりました。
なんとか採用できるレベルまでは育ってくれたのですが、いざ量産が始まると、不良が頻繁に発生したのです。
現地へ行ってみると、そこには「キャパオーバー」の現実がありました。
一つは、工場の規模に対する注文量のキャパオーバー。
安いからと大量に発注した結果、その工場がさばける量を超えていたのです。
もう一つは、作業者のレベルのキャパオーバー。
SOPやSIPでルールは整えたものの、新しい取引先だったこともあり、作業者一人ひとりまで要求の意図が浸透していませんでした。
ここから学んだことは、はっきりしています。
安いものには、安いだけの理由が必ずあります。
安さに飛びついて無理に採用すると、不良の流出や市場での回収、評判の低下など、あとから大きなコストを背負うことになりかねません。
無理やり採用するのではなく、自社の基準で合格できる工場を選ぶこと。
これを、強くおすすめします。
📌 今日できる一歩
取引先に伝える要求事項を、口頭ではなく「文書」にして残すことから始めてみてください。
何を・どの基準で・いつまでに、を一枚にまとめるだけで、言葉の壁を越えて意図が伝わりやすくなります。
監査だけでは品質は安定しない|継続して維持管理する仕組み
ここまで監査の進め方を見てきましたが、最後に大切なことをお伝えします。
監査は、それ自体がゴールではありません。
監査をきっかけに、日常の中で品質を維持・管理し続けてはじめて、品質は安定します。
監査は「きっかけ」、本番は日常の維持管理
新規の工場だけでなく、すでに取引のある工場も、定期的に監査します。
私の場合は、年に1〜2回ほど訪問していました。
久しぶりに訪れると、生産体制が変わっていたり、管理者が交代していたり、設備やレイアウトが変わっていたりします。
こうした変化は4M(人・設備・材料・方法)の変更管理にもあたるため、把握しておく必要があります。
ある取引の長い工場で、一つの工程の責任者が交代していたことがありました。
新しく採用された方で、工場内のルールをまだ把握できておらず、設備の管理や不良品の隔離といった基本的なことができていませんでした。
新人の管理職という事情は理解できますが、「この環境で作られると、自分たちの製品に不良が混ざりかねない」と判断し、すぐに改善指示を出しました。
このとき実感したのは、取引の長いベテラン工場でも、人や設備が変われば品質は揺らぐということです。
だからこそ、定期的に訪問して確認する意味があります。
取引先が多くて頻繁に行けない場合でも、少なくとも年に1回くらいは訪問して確認することをおすすめします。
工場任せにしない=発注側が一緒に品質を作る
品質を工場任せにしないことも、大切な姿勢です。
「作るのは工場の仕事」と切り分けてしまうと、問題が起きるたびに責め合う関係になってしまいます。
発注側も一緒になって品質を作る。
そうすると、良い品質が安定して生まれ、結果として買い手も売り手も得をします。
これは、近江商人の「三方よし」にも通じる考え方です。
取引を長い目で見る姿勢については、商売の基本は「三方よし」|会社員でも意識すべき理由と実践法でも触れています。
監査する側に必要なスキルと姿勢
監査する側にも、品質管理の基礎知識が求められます。
何が正しい状態かを知らなければ、危険サインにも気づけないからです。
体系的に学びたい方には、品質管理の知識を客観的に測れるQC検定(品質管理検定)のような仕組みもあります(日本規格協会「品質管理検定(QC検定)とは」)。
そしてもう一つ大切なのが、相手を責めないという姿勢です。
監査は、粗探しではありません。
一緒に良いものを作る仲間として、改善を後押しする。
その姿勢があるかどうかで、相手の動き方は大きく変わります。
📌 今日できる一歩
取引先のカレンダーに、次回の定期監査の予定を仮でいいので入れておきましょう。
「一度きり」ではなく「続ける」前提を持つだけで、品質を見守る目線が変わります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 工場監査とは何ですか?
取引先の工場が、安定して良品を作れる体制かを、現場・記録・人を見て評価・確認する取り組みです。
出来た製品を見る「検品」に対して、監査は「作る仕組み」を見るのが大きな違いです。
仕組みを見ることで、不良が生まれる根っこに手をつけられます。
Q2. 工場監査では何を見ればいいですか?
品質管理の体制、工程と手順書(SOP)の順守、記録・トレーサビリティ、5S、改善・是正の仕組みが基本の観点です。
チェックリストにして、現場と書類のギャップを「自分の目」で確認します。
項目を埋めること以上に、危険サインに気づく視点が大切です。
Q3. ISO認証がある工場なら監査は不要ですか?
認証は一定の体制がある証ですが、運用が形だけになっていることもあります。
認証イコール品質の保証ではないため、発注側が実際の運用を確かめる第二者監査が有効です。
看板の有無と、実際に仕組みが動いているかは、分けて見るのがおすすめです。
Q4. 中国・海外工場の監査で気をつけることは?
言語の壁を「文書」で埋め、要求事項を曖昧にしないことが基本です。
現場を自分の目で見て、形だけの5Sや口だけの管理を見抜く。
個人の経験では、相手を一括で否定せず、一緒に仕組みを作る姿勢が、結果的にうまくいきやすかったと感じています。
Q5. 工場監査に行くときの服装やマナーは?
現場を歩くので、清潔感があって動きやすい服装が向いています。
安全靴やヘルメットなどは、相手の指示に従ってください。
挨拶やお礼は丁寧に。
手土産よりも、要求事項を明確に文書で示すことのほうが信頼につながると、個人的には感じています。
工場監査は、取引先と一緒に良品を作り続ける仕組みです
工場監査は、不良を責めるための検査ではありません。
取引先と一緒に、良品を作り続ける仕組みをつくっていく取り組みです。
品質が安定しないのは、あなたの管理能力のせいではなく、作る仕組みを見る視点が、これまでなかっただけなのです。
中国・海外の工場で品質に悩んでいるなら、まずは自社の製品に合った1枚のチェックリストを作り、次の現地訪問で「自分の目」で現場・記録・人を見ることから始めてみませんか。
是正は期限と責任者を決めてフォローし、一度で終わらせず続けていく。
その積み重ねが、安定した品質をつくります。
すべてを完璧にやろうとしなくて大丈夫です。
まずは「仕組みを見る」という一歩から、始めていきましょう。
次に読むなら
- 現地で確認すべきポイントを具体的に知りたい方へ:中国工場の品質管理の実態|現地で必ず確認すべき6つのポイント
- 信用できる工場を見極めたい方へ:信用できない中国企業の特徴6選|取引で後悔しない工場の選び方
- 不良の根本原因を断ちたい方へ:なぜなぜ分析のコツ|不良の根本原因を特定し再発を止める進め方
- 品質管理の仕事を基礎から知りたい方へ:品質管理とは?仕事内容をわかりやすく解説|未経験の不安に答える
出典
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「4S(整理、整頓、清掃、清潔)」https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo61_1.html(4Sにしつけを加えて5S。整理・整頓などの定義と、5Sが安全・品質の土台であること)
- 日本品質保証機構(JQA)「ISO 9001(品質)」https://www.jqa.jp/service_list/management/service/iso9001/(ISO9001は品質マネジメントシステムに関する国際規格で、一貫した製品・サービスの提供と顧客満足の向上を目指すこと)
- 日本規格協会「品質管理検定(QC検定)とは」https://webdesk.jsa.or.jp/common/W10K0500/index/qc/qc_qc1(品質管理の知識レベルを段階的に評価する検定。監査する側に必要な品質管理の基礎の裏付け)
